医師がキャリアを築くということ

2008年08月11日

医師がキャリアを築くということ (10)

スローキャリア_医師_転職まとめるならば、研修が済んでいる臨床医にとっては(初期研修で大学を選ぶか市中病院を選ぶかはここでは重要視しません)、まず大きくは大学病院の医局に身を置くか、医局から離れてインディペンデントの病院で腕を磨くか、という選択肢がありえます。 前者のメリットとしては、学位が取得しやすかったり、アカデミックな分野で成果や名声を得やすい点が挙げられます。 先端医療を学ぶことができるという点でも、まだ大学病院に分がある疾患・治療領域もあるでしょう。 よって、目的合理的キャリア形成の観点からは、自分のめざすキャリア・ゴールがいわゆる「学界」の中にあるならば、大学の医局に身を置くという選択が望ましいことになります。 雑用だらけの医局に所属する医師にとって、自分のキャリア構築に必要なタスクだけをこなし、他は切り捨てるといったような「自由」はきかないとお考えの向きもあるかもしれませんが、やりたいことだけをやれる職場などそうそうあるものではありません(製薬会社も然り、です)。 あまり極端なことは出来ないにせよ、教育、臨床、研究の3本柱のうち、研究にプライオリティを置いて、さらにその中で自分なりにキャリア・ゴールに向けた方向付けをしていくべきでしょう。
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2008年06月26日

医師がキャリアを築くということ (9)

スローキャリア_医師_転職くろやまちゅうまさんから2008年06月25日 00:18にいただいた追加コメントも踏まえて、論を先に進めることにしましょう。

まず、くろやまちゅうまさんが例として提示されたような、世界から招聘されるような高い専門性を持った医師、医療で全国展開する徳洲会のような医療法人の設立を目標とする医師、医療後進国での専門的治療の浸透に努める医師や、米国で医師資格を取って臨床教授になった日本人医師は実際に存在するわけで、そうした人たちならば、目的合理的キャリア形成的なものにせよ、プランド・ハップンスタンス・セオリー(後述)的なものにせよ、自分のキャリア構築に関して何がしかを語ることができるでしょう。

しかし彼らが、日本の専門医制度や認定医制度、そして学位を高く評価するでしょうか?

彼らのようになるために、日本の専門医の資格や認定医や学位を取得する必要があるでしょうか?

恐らく彼らの中には日本の専門医や認定医の資格、学位を有している人もいるでしょうが、それは果たして彼らのキャリア構築に必須のコンポーネントだったのでしょうか。

ぼくはそれに関しては大いに懐疑的です。
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2008年06月21日

医師がキャリアを築くということ (8)

製薬会社に転職するのではなく、医師が医師のまま、「大学医局ではキャリアは築けない」のだろうか? という趣旨のコメントをくろやまちゅうまさんからいただきました。

これは、「医師がキャリアを築くということ (6)」から取り上げている、tarakogohanさんからのコメントに端を発するテーマと、盾の両面をなす疑問・ご意見だと思います。

結論から言えば、大学病院の医局に留まったまま、医師が自らのキャリアを構築することは可能でしょう。

ただし、その場合のキャリアの定義は、(少なくとも外資系の)製薬企業に転職した場合とは大きく違ってくるような気がします。

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2008年06月17日

医師がキャリアを築くということ (7)

前記事に対してtarakogohanさんからいただいた追加コメントにお答えしつつこの項の続きを書くことにします(bonさんからのご質問にはまた別に項を立ててお答えします)。

確かに大学での研究はインパクトファクターが高い雑誌に採用されることに重きを置きがちなので、必然的に基礎医学的要素が強いものに偏りがちです(臨床研究でhigh IFの雑誌に掲載されるような論文を書くのは日本の実情では難しいからです)。

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2008年06月12日

医師がキャリアを築くということ (6)

今回は、少し遅くなりましたが、5月25日にtarakogohanさんからいただいていたコメント・ご質問に対する回答を兼ねて、医師のキャリア選択に関する愚論を述べたいと思います。

ある意味で、医師が自らのキャリアを選択する際の材料となる因子が、tarakogohanさんのコメントに集約されています。

まずは「医師としてのやりがい」ですが、製薬会社に転職するということはすなわち患者さんに直接触れる機会が無くなることを意味します。

もちろん、製薬に携わることで、理論的には多くの患者さんの予後や転帰、QOLを改善することに貢献できうるわけですが、自分が開発に関わった薬で良くなった患者さんの顔は見ることはできないわけで、臨床志向の強い医師にとっては物足りなく感じられるかもしれません。

また、敢えて正直なところを申し上げれば、僕個人は、製薬会社で働いていることで患者さんに貢献できていると感じたことがほとんどありません。
開発品目の数が多く、そのうち「モノになる」のはごく少数でしかないことがその理由の一つです。医薬品の開発には時間がかかり、ある薬物の第1相試験が始まってから申請・承認・市販にこぎつけるまでに数年の時間がかかることも「手応えの曖昧さ」の一端を担っているかもしれません。

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2008年01月07日

医師がキャリアを築くということ (5)

あるいは僕は、「10年後の自分」式のキャリア構築に対して偏見もしくはコンプレックスを持っているのかもしれません。

医学部を受験するに当たっても、医学部卒業後の専攻科を決めるに当たっても、僕は、我ながら「何となく」決断を下してきました。
製薬業界への転職も、客観的にはそこそこ大事(おおごと)だとは思いながらも、流れに身を任せるようにあっさりとレールを乗り換えたような覚えがあります。

これまでの人生において、明確な目標を設定してキャリアを選択したという経験が僕には皆無なのです。

だからというわけではないのでしょうが、「小さい頃に難病にかかったけど名医に命を救われたので自分も医師を志した」とか、「いかなる名医でも治療できる患者さんの数は限られているが、画期的な新薬の開発に貢献できれば間接的に多数の患者さんを救うことが出来るから製薬会社に勤めようと思った」といった類型的な職業選択動機を口にする同業者に対しては斜に構えてしまうようなところが僕にはあります。

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2007年12月31日

医師がキャリアを築くということ (4)

目的合理的キャリア形成のキーワードは「10年後の自分」と「キャリアの棚卸し」です。

この2つのキーワードならば耳にしてことくらいはある、という方は多いのではないでしょうか。
最近は国内企業でも欧米型のキャリア構築を(非常に中途半端な形ではありますが)社員に課しているところが少なくありませんし、何よりも、新卒の大学生や、転職志望者を顧客とするような業者は決まり文句のようにこれらのワードを用います。

試しに「10年後の自分」か「キャリアの棚卸し」をキーワードにググってみてください。
引っかかってくるのはそういった業者のサイトが大半です。

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また、当然のことながら、「医師がキャリアを築くということ (2)」で触れたような、社員教育としてのキャリアプランニングのセミナーを提供しているような会社も、そのセミナーの中でさかんにこれらの言葉を連呼します。

僕が前社で受けたワークショップを運営していた業者ではありませんが、「フォーダブルサロン」という転職サービスを提供している会社のサイトで、同社のセミナーの様子を紹介しています(「フォーダブルサロンからのおしらせ:フォーダブルキャリアサロン 第4回セミナーレポート」)。

違う会社なんですが、気味が悪いくらい内容は似通っています。
この手のセミナーは西洋起源なので、理論的基礎はどこの業者も同じなのでしょうが、ひとことで言ってしまえば人格改造セミナーとか自己啓発セミナーと呼ばれるものに雰囲気や方法論は酷似しています。

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医師がキャリアを築くということ (3)

要するに、今年1年の目標を決めてそれを会社にコミットし、年末にその達成度を評価するのは“short term plan”で、それ以外に“long term plan”を設定することを全社員が義務付けられていました。

少し後になってわかってきたことですが、これは多くの外資系の企業で一般的に採用されている社員のキャリア形成の方法論です(後述するように、一部では趨勢は変わりつつあるようですが。外資系転職求人サイトの[ダイジョブ Daijob.com]でそのものずばりのエピソードが記述されています)。

5年、10年といった長いスパンでのゴールを設定することで、そのゴールに到達するためにはいつまでに何をしなければならないかが明確化されるというのが、この、いわゆる目的合理的キャリア形成の正当性の根拠となっています。

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例えば、10年後に米国本社でマーケティングのチームリーダーになっていたいという目標を設定したとします。
資格としてMBAが必要なのでいつからいつまでの期間に留学しなければならず、そのためにはいつまでにTOEICで700点程度の英語力はついていなければならない。
日本法人でも主力製品のマーケティングチームに配属されて国内での経験を積むことが望ましいし、そのためには現在関わっているプロジェクトは来年の第3四半期にはひと段落していなければならない。並行して短・中期の米国本社出張をして人脈作りと適性の判断もしておくべきであろう――といったように、長期的目標が中期・短期の目標にブレイクダウンされていき、短期の目標までが明確化されるというわけです。

たしかにこのやり方によって、近視眼的に目標を定めるよりも説得力のある自らのキャリアパスを作れるような錯覚には陥ります。

特に医者の身で外資系製薬会社に身を置くことになった場合、免疫が無い分だけこうした目的合理的キャリア形成に対して強迫的になってしまう危険があるかもしれません。

→医師がキャリアを築くということ (4)
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2007年12月25日

医師がキャリアを築くということ (2)

多くの外資系企業がそうであるように、僕が最初に勤めた(といっても、現在の会社がまだ2社目ですが)製薬会社では、社員に「キャリア・ビルディング」を学ばせるためのワークショップの類が年に数回は開催されていました。

外部から講師を招いて丸2日間をかけて行われるような本格的なもので、ほぼ強制参加です。医師枠で採用された僕も例外とはされず――というかむしろ「好適応」として、そうしたワークショップへの参加が義務づけられました。

どうやら、入社時に一度受講すればそれでOKというものではなく、マネージャー(≒課長)になったらマネージャーのための、ダイレクター(≒部長)になったらダイレクターなりの、「キャリア・ビルディング」のプログラムが用意されているようでした。

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また、給与に関しては、年初にその年の業績の達成目標(コミットメント)を立て、7〜8月に行われる直属の上司との中間レビュー面談でその達成度の確認と軌道修正、年末の最終レビューで評価が定まり、ボーナスや、翌年の昇給・減給に反映されるというシステムがとられていました。
これは外資ならばどこでも似たようなやり方をしているようです。

大リーガーのような年俸制ではなく、一定の年収は保障された上で可変化分が交渉によって決まるという仕組みです。
この仕組み自体に違和感は感じませんでした(何せ前職が大学病院の平医局員だったので、およそ自分の給与に関して疑義を唱えるという発想自体がなかったのかもしれません)。

ただ僕にとって不思議だったのは、年初にその年の目標を決めるだけではなく、5年・10年もしくはそれ以上の長いスパンで自分の将来的なキャリアプランを立てるというタスクが課せられていたことです。

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2007年12月24日

医師がキャリアを築くということ (1)

このブログの読者の多くは医療機関で臨床や研究に従事しているMD――医師なのではないかと思います。
もしくは、医師でなくても、製薬会社への転職や、転職そのものへの興味と関心をお持ちの方々でしょう。

皆さんは、「キャリア」という言葉を聞いてどのような連想をされるでしょうか?

「キャリア」は、直訳すれば「職業」や「職歴」です。
しかし最近では、「キャリア」は、それらを超えて、人生や人格といった重層的な要素が含まれる用語になってきています。

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一般社会では近年、そういったニュアンスでの「能動的なキャリア構築」が、いわゆる勝ち組になるための必須要素であるかのように喧伝されています。

日本の医師の大部分は、そのような「能動的に構築するキャリア」からは一番遠い場所に居る――少なくともかつては居た――人種と言えるかもしれません。

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自己紹介
石動(いするぎ)アキ

外資系製薬企業勤務。部長待遇。♂。

大学病院とその関連病院で臨床中心に仕事してましたが、転機が訪れ、転職を果たして5年目に入ります。

臨床開発、メディカル・マーケティング、安全性管理と経験を積み、2007年からは国際共同治験のコーディネートがメインの仕事になってましたが、2008年4月に4回目の転職を果たしました。

愛妻と愛息2人との4人暮らし(+猫2匹)。

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